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1992年秋、西宮市S町の日当たりの良い斜面に湿原を見つけました。見つけた、と
いうのは正確な表現ではないかもしれませんが、ともかく民家が近くにありながらも
ほとんど人の入らない湿った斜面があり、トキソウ、カキラン、モウセンゴケ、コモ
ウセンゴケ、ウメバチソウ、スイラン、ワレモコウ、ミミカキグサが確認できまし
た。近くには甲山湿原があって保全活動がされていたのですが、似たような湿原が人
知れず存在していたのでしょう。何度か訪れては湿生植物の写真を撮りました。
その後仕事が忙しくなるにつれてS町の湿原のことを忘れていましたが、約15年ぶ
りにふとしたことで思い出し、西宮市環境保全グループにかいつまんで報告しまし
た。15年前に貴重な植生が残っていると思われる湿原をみつけたこと、保全の対象と
なりえるかもしれないのでとりあえず報告します、と。
しかし返事は「捜査しましたがそのような湿原はみつかりませんでした」とのこと
でした。俄かに信じがたく、私も現地に行ったのですが、立ち木が茂って日当たりが
悪くなり、さらに落ち葉が積もり、15年前の景色とまったく様変わりしていました。
わずか15年間、開発されたわけでもなく自然に任せていたのにもかかわらず、湿原は
消滅したのです。
あとで聞いた話では、こうした湿原は中間湿原というものに属し、自然に任せてい
ればなくなってしまうため、甲山湿原でも乾燥化を防ぐ「保全活動」をしているそう
です。
確かに、貴重な湿生植物を残そうとする活動は重要なことと思います。しかし自然
に任せていればわずか20年足らずで消えてしまったのです。「保全活動」とは、この
自然界をマクロな視点でとらえれば、その位置づけはどうなるのだろうか、と考えさ
せられました。さらに、自然に生きる動植物がかくも危ういバランスの上に成り立っ
ているということを痛感しました。
皆様のご参考になれば幸いです。
撮影者:豊田 泰弘 さん 撮影場所:西宮市S町 (1992〜1993) 目次へもどる
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