野山のたより2008年8月号

「消えた湿原」
(「都市と自然」8月号/「あんなこと・こんなこと」に本文のみ掲載)


カキラン(1993.6.26.)

モウセンゴケ(1993.6.26.)

カキラン(1993.6.26.)

モウセンゴケ(前方白い花)とコモウセンゴケ(後方桃色の花)(1993.6.26.)

ミミカキグサ(1992.10.頃)

トキソウ(1993.6.26.)

ウメバチソウ(1992.10.頃)


 1992年秋、西宮市S町の日当たりの良い斜面に湿原を見つけました。見つけた、と いうのは正確な表現ではないかもしれませんが、ともかく民家が近くにありながらも ほとんど人の入らない湿った斜面があり、トキソウ、カキラン、モウセンゴケ、コモ ウセンゴケ、ウメバチソウ、スイラン、ワレモコウ、ミミカキグサが確認できまし た。近くには甲山湿原があって保全活動がされていたのですが、似たような湿原が人 知れず存在していたのでしょう。何度か訪れては湿生植物の写真を撮りました。

 その後仕事が忙しくなるにつれてS町の湿原のことを忘れていましたが、約15年ぶ りにふとしたことで思い出し、西宮市環境保全グループにかいつまんで報告しまし た。15年前に貴重な植生が残っていると思われる湿原をみつけたこと、保全の対象と なりえるかもしれないのでとりあえず報告します、と。

 しかし返事は「捜査しましたがそのような湿原はみつかりませんでした」とのこと でした。俄かに信じがたく、私も現地に行ったのですが、立ち木が茂って日当たりが 悪くなり、さらに落ち葉が積もり、15年前の景色とまったく様変わりしていました。 わずか15年間、開発されたわけでもなく自然に任せていたのにもかかわらず、湿原は 消滅したのです。

 あとで聞いた話では、こうした湿原は中間湿原というものに属し、自然に任せてい ればなくなってしまうため、甲山湿原でも乾燥化を防ぐ「保全活動」をしているそう です。

 確かに、貴重な湿生植物を残そうとする活動は重要なことと思います。しかし自然 に任せていればわずか20年足らずで消えてしまったのです。「保全活動」とは、この 自然界をマクロな視点でとらえれば、その位置づけはどうなるのだろうか、と考えさ せられました。さらに、自然に生きる動植物がかくも危ういバランスの上に成り立っ ているということを痛感しました。

 皆様のご参考になれば幸いです。

撮影者:豊田 泰弘 さん  撮影場所:西宮市S町 (1992〜1993)   目次へもどる / 次の写真へ