都市と自然誌抜粋(トピック)No_448_201307

Tomorrow 生物多様性地域戦略と市民団体の役割を考える

  野田 奏栄(協会理事)

 自然資源の枯渇への危機感が高まり、自然から搾取する構造のままでは人間社会は存続・発展得ないという認識が世界的に共有されたことが、1992年の気候温暖化枠組条約と生物多様性条約へとつながった。その後、「持続可能」という概念のもとで「循環型社会」への転換が図られるようになったが、それは“人”の生活の中の枠組だけでのことであった。生態系あるいは生態系サービスの基盤である“生物多様性”の保全や、その持続的利用とのつながりは見られなかった。

 そのような中、2010年に名古屋で開催された第10回生物多様性条約締結国会議(COP10)では、それまで20年間の条約推進の取り組みが総括され、この条約が、「人間社会を支え利益をもたらす生物の多様性をみんなで守り、均等に分かち合えるようなシステムを作ろうとするものである」ということが再認識された。そこには、「生物多様性の保全は経済発展と対立するものではなく、利益をもたらすことにつながる」という認識の主流化がある。それを実現するための今後10年の行動目標として合意されたのが、「愛知ターゲット」である。締約国間では、各々の自治体が地域の実情を反映した取り組みを行うことが不可欠だという認識も共有されている。「生物多様性地域戦略(以下、地域戦略)」を策定する努力義務が、「生物多様性基本法」で規定されているのはそのためだ。

 このような社会の動きの中で、市民団体である保全協会はどのように行動をしていくべきだろうか。まず各活動を生物多様性保全の視点から意識し直すことが必要だろう。私たちは、観察会やイベントを通じて、生物の面白さや生物多様性の意味を伝えようとしている。地域の人と関わり、そこで培われてきた技術を学びながら里山保全活動を展開してきている。様々な人との連携による、市民参加型モニタリングも行ってきている。さらに、行政に対して多くの提案を行ってきている。これらはすべて、愛知ターゲットにリンクしている。

 そのような市民力こそが、地域戦略に活かされるべきだ。そのためにも、どんな目標像や効果を据え、どんな「作戦」をもって計画的に行動するのかを明確にすること、更にそれを共有し、連携して取り組んでいく必要がある。市民力を上げ、行政や企業を動かしていく気概も求められる。私が関わった徳島県での地域戦略づくりは、専門家との連携のもと市民提案・市民主導で行われた力強い例だ。今や生物多様性への配慮を経営方針に掲げる企業も出てきている。できることは多い。レクリエーション的な活動や一部地域の保全に留まらず、経済活動とのつながりを見出し、現場に訪れなくても寄与できる仕組みを作り、関与できる層を厚くしていくことも必要だ。そして、ライフスタイル並びにまちの姿の変換にまでつながる包括的な取り組みにしていくこと、それが私たちのめざす生物多様性地域戦略と考えている。


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